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春の祈りを指先にのせて ――『花は咲く』を奏でながら

三月の季節は、どこか迷っているような空気を纏っています。
カーテンの隙間から差し込む光の角度が二月よりも少しだけ深くなり、
床にうっすらと光の道が描かれるのを見つめていると、
季節の歩みを感じずにはいられません 。

窓を開ければまだ冷たく、春と冬が静かに押し合いへし合いしているような、そんな季節の狭間の感触 。

そんな季節にふと頭の中に流れてきたのが、『花は咲く』のメロディでした 。

三月という季節が持つ「祈り」のような空気と、この曲が内包する静かな希望が、
わたしの内側でそっと共鳴したのだと思います。

楽譜の中に隠された「祈り」東日本大震災の復興支援ソングとして生まれたこの曲を、あらためて楽譜で紐解いてみました 。

初めてページを開いたときは、その音符の少なさに少し戸惑ったほどです。

けれど、実際に音を鳴らしてみると、シンプルであることは決して「易しい」ことではないのだと気づかされます。

音符が少ないということは、一音一音に逃げ場がないということ 。

特に、左手が刻む和音の中に隠れた低音の旋律を見つけたとき、胸がぎゅっと締め付けられました。

それはまるで、主旋律とは別の誰かが捧げている「もう一つの祈り」のようで、
この曲がこれほど多くの人の心を動かし続けてきた理由が、その設計図の中に確かに刻まれていました。

練習室という静謐な時間

今回は、KAWAIの練習室で撮影を行いました。

防音扉を閉めて外の世界の音が消えると、残るのはピアノと自分だけ。

そんな静かな空間に身を置くと、音に対して、そして自分に対して、不思議と正直になれる気がします 。

「誰かのために」

演奏しながら思い浮かべていたのは、震災で大切な存在を亡くした方や、今も故郷に帰れない方、
そして日々の暮らしの中で人知れず傷ついている、まだ見ぬ誰かでした 。

その想像は、自然と「間」の取り方を変えていきました。

フレーズの間に置いたほんの一瞬の余白が、聴いてくださる方の心に届くことを願いながら。

日常のなかの小さな誠実「祈り」とは、神社の前で手を合わせるような特別な瞬間だけを指すのではないのかもしれません。

朝ごはんの茶碗を丁寧に洗うこと 。
花瓶の水を換え、茎を斜めに切り落としてやること。
大切な人へのメッセージを、一度読み返してから送ること。

そんな「丁寧な所作」こそが、小さな祈りそのものではないでしょうか。

ピアノも同じです。

今の自分にできることは、完璧な演奏を目指すことよりも、
一音にどれだけ心を乗せ、誠実に向き合えるか。

その小さな積み重ねが、
聴いてくれた誰かの「今日」をほんの少しだけ柔らかくできたなら、
それで十分だと思っています。

不完全な部分もあるかもしれません。

でも、今のわたしにできる精一杯をこの音色に託しました。

日々の何気ない暮らしの中に、静かな希望の花が咲きますように。

お忙しい日常の合間に、少しでも心休まる時間をお届けできれば嬉しいです。


▶ YouTube動画はこちらです。


by milkcreamaji | 2026-03-08 17:31 | Comments(0)